ジョン・バーニンガム
絵本作家 ジョン・バーニンガム
遊び心とやさしさに満ちたバーニンガムの世界。ほのぼの、しみじみ、くすくす、じわっ。
いたずら好きの動物たちに会いにいこう!
Mr.Gumpy’s Outing
ガンピーさんのふなあそび ジョン・バーニンガム作 光吉夏弥訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
ガンピーさん 子ども2人 ウサギ ネコ イヌ ブタ ヒツジ ニワトリ2羽 子ウシ ヤギ
ガンピーさんと愉快な仲間たち。
いかにも人が良さそうなガンピーさんと、いかにもいたずらをしでかしそうな動物たちが舟に乗って川下り。イギリスの田園風景に似合いそうなひとコマです。
みんなガンピーさんと「~しない約束」をして舟に乗ったけど穏やかなひとときは長続きしません。てんやわんやの大騒ぎで舟はひっくり返りみんな川へドボーン。
ほのぼのとしたユーモアただようイラストと文章がバーニンガム独特の世界へ誘います。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
“We'll walk home across the fields,”said Mr. Gumpy.“It’s time for tea.”
イギリスだもの、お茶の時間ははずせません。
Mr.Gumpy’s Motor Car
ガンピーさんのドライブ ジョン・バーニンガム作 光吉夏弥訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
ガンピーさん 2人と9匹の仲間たち
オープンカーに乗って出発!
『Mr.Gumpy’s Outing』の第2弾。ガンピーさんと仲間たちが今度はオープンカーに乗って野原をドライブ。ところが途中で雨が降り出して、タイヤがぬかるみにはまってしまいます。全身ずぶぬれ、泥まみれになりながら、みんなでエンヤコーラ。力を合わせて危機を脱します。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
“Come for a drive another day.”
物語を締めくくるガンピーさんの言葉です。
Would You Rather…
ねえ、どれがいい? ジョン・バーニンガム作 まつかわまゆみ訳 評論社
迷っちゃうな、困っちゃうな。
ジャムで全身ベタベタか、汚水で全身ビショビショか、それとも飼いイヌに引っ張られて全身泥まみれか。どれがいい?
どうしても食べなきゃいけないとしたら、クモのシチューか、ナメクジギョウザか、すりつぶしたミミズか、それともカタツムリシェイクか。どれがいい?
ヘビにぐるぐる巻きにされるか、サカナにひと飲みにされるか、ワニに食べられるか、それともサイのお尻の下敷きになるか。どれがいい?
思わず真剣に考えてしまう人生の選択。どれが、いいかな。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
Would You Rather…
your DAD did a DANCE at school or your MOM made a FUSS in a café?
こどもにとっては大問題かも…。
John Patrick Norman McHennessy, the boy who was always late
いつもちこくのおとこのこ―ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー
ジョン・バーニンガム作 谷川俊太郎訳 あかね書房
主なキャラクター
ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー 先生
訳あり!ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーの遅刻。
遅刻にはいろんな理由があります。些細なものからやむにやまれぬ事情までさまざまです。
いつも学校に遅刻している男の子ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーの場合はといえば、れっきとした理由があります。
だって、ワニが突然現れてバッグに食いつき離そうとしないんだもの。ライオンが突然現れたから木に登って逃げたんだもの。橋で突然津波におそわれて欄干にしがみついていたんだもの。
それなのに先生はジョンの言い訳を全然信じてくれません。罰として「二度と嘘はつきません」と書かされたり言わされたり立たされたり。
先生の石頭にひと泡吹かせる最後のエピソードがとびきり痛快です。
見返し4ページ分に手書き文字で「I must not tell lies about crocodiles and I must not lose my gloves.」の文がぎっしり。バーニンガムが末娘エミリーに書いてもらったそうです。liesの綴りが途中でliseとなっているのをあえて直していません。本文ではジョンがこの文を300回書くよう命じられます。一面を埋めた文字はこどもの悲鳴のようにも感じられます。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
John Patrick Norman McHennessy set off along the road to learn.
物語はこの一文で始まり、この一文で終わります。イラストの暗さと明るさが印象的。
The Shopping Basket
ショッピング・バスケット ジョン・バーニンガム作 青山南訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
スティーブン
スティーブン少年のおつかいアドベンチャー
お母さんにおつかいを頼まれたスティーブン少年。買い物をすませ店を出るとクマが待ち構えてカゴの中の卵をよこせだって。スティーブンは機転をきかせ見事に撃退。家路を急ぐ彼の前に今度はサルが現れてバナナをねだります。さあ、どうするスティーブン。
近所へひとっ走りのおつかいだって子どもにとってはドキドキの冒険です。何の変哲もない町の風景も子どもの目と心を通すとスリルいっぱいの世界に早変わり。
食べ物をねらう動物にひとあわ吹かせるスティーブンの機転に拍手!
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
He bought the six eggs, five bananas, four apples, three oranges for the baby, two doughnuts and a packet of crisps for his tea.
But when he came out of the shop there was a bear.
買い物カゴは食べ物でいっぱい。そこに突然クマが現れるなんて!
ALDO
アルド:わたしだけのひみつのともだち ジョン・バーニンガム作 谷川俊太郎訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
わたし アルド
アルドがいてくれるから大丈夫。
I spend a lot of time on my own.
物語はこの1文で始まり、1人の女の子の日常を淡々と描いていきます。家ではテレビを見たりおもちゃや本に囲まれています。家族と外食したり公園へ行ったりします。でも1人でいる姿はさびしそう。時には学校でひどい仕打ちを受けることも。そんな自分を嘆いたりしません。なぜって秘密の友だちアルドがいるから。アルドがそばにいてくれれば何もこわくありません。
Aldo will always be there.と物語は結ばれます。
アルドとスケートをしたりブランコで遊んだりボートにのったり。見開きいっぱいに描かれた2人だけの世界に文章は添えられていません。でも静かな、そして楽しげな会話が絵本から聞こえてきます。この絵本でアルドと出会った読者は、自分のアルドを見つけるかもしれません。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
Aldo takes me to wonderful places. I’m not scared of anything when I’m with Aldo.
アルドと手をつなぎ、おだやかなひととき。
Courtney
コートニー ジョン・バーニンガム作 谷川俊太郎訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
コートニー
しょぼくれ老犬は想像を絶する能力の持ち主だった!
表紙で行儀よくおすわりしているのが主人公のコートニーです。眉毛とヒゲがもじゃもじゃした、誰も飼いたがらない老犬です。でも実はすごい特技を持っているんです。
誰も飼いたがらない犬を飼いたかった姉弟がコートニーと出会い、家に連れて帰ります。翌朝、姿を消したと思ったら、午後になって舞い戻ってきました。しかも大きなトランクを引っ張って!それからコートニーの大活躍が始まります。
家族とコートニーとの夢のようなひとときは突然終わります。でも、いつも、どこかで、見守っていてくれるのかな。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
That afternoon, Courtney came back dragging a large trunk behind him.
トランクの中身は一体なに?べたべた貼ったシールにはSYDNEY、CAIROと並んでOSAKAの文字も。
Oi! Get off our Train
いっしょにきしゃにのせてって! ジョン・バーニンガム作 長田弘訳 瑞雲舎
主なキャラクター
男の子 イヌ 動物たち
モデルは「SL義経号」。夢の国へ出発!
鉄道模型で遊ぶのが大好きな男の子。イヌをお伴に夢の国へ出発進行!もくもく煙を上げて列車は進んでいきます。途中でゾウが乗り込んできました。象牙を狙われ助けを求めています。次はアザラシ。海が汚れ食べる魚も減っていると訴えます。おやおや、今度は空からのお客さんのようです。危機にさらされている動物たちを乗せて男の子の列車はシュシュポポ、シュシュポポ...。
1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」のために描かれた絵本です。身近な動物が登場して彼らを取り巻く環境問題をやさしく訴えかけます。トビラには、ブラジルの熱帯雨林の保護活動に尽力して凶弾に倒れたChico Mendes(シコ・メンデス)への献辞が記されています。
夢の国を走る列車のモデルは日本初の蒸気機関車「SL義経号」。「国際花と緑の博覧会」では、この義経号に3両編成の客車を連結させたイベント列車「ドリーム・エクスプレス」が2つの駅舎の間を走りました。バーニンガムは客車と駅舎のデザインも手がけています。駅舎は福知山線柏原駅と小浜線若狭本郷駅に移築されました。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
"We are ready to go now. Don't make too much noise with the shovel."
おそろいのスカーフと帽子を身につけて、夢列車の出発です。
リンク
- jyunyoubaronさんのブログ
本書の出版にまつわるとても興味深いエピソードが書かれています。なんとジョン・バーニンガム本人にも会ったそうで、「人懐こい紳士で、素朴で素晴らしい雰囲気を持った人」と印象を述べています。
Come away from the water, Shirley
なみにきをつけて、シャーリー ジョン・バーニンガム作 辺見まさなお訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
シャーリー お母さん お父さん
シャーリーは大海原で大冒険。
親子3人で過ごす海辺のひととき。お母さんとお父さんは折りたたみイスでのんびり編み物をしたり新聞を読んでいます。シャーリーは両親から離れ、ひとり海を見つめています。
「あそこの子たちと遊んでらっしゃい」「おろしたての靴を汚しちゃダメよ」「野良犬に触っちゃダメ」
バシバシ飛んでくる小言のつぶてもシャーリーには届きません。だって、遥か沖の海賊船に乗り込んで闘っているんですもの。
いかつい男たちを相手に大立ち回り。ドクロの旗と宝の地図を手に入れて宝探しにゴー!見事に金銀財宝を掘り出しました。やったね、シャーリー。
左と右のページで、現実と想像の世界が別々に展開する構成になっています。左ページはお母さんとお父さんが過ごす大人の時間。対する右は異次元に遊ぶシャーリーの世界。
バーニンガムの仕掛けにしたり顔でうなずくか、笑い飛ばすか、海賊退治と宝探しに加わるか。楽しみ方は年齢不問ですね。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
That’s the third and last time I’m asking you whether you want a drink, Shirley
文章はすべてお母さんのセリフです。どれも娘の心を素通りしてしまうようです。
The Magic Bed
旅するベッド ジョン・バーニンガム 文と絵 長田 弘訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
ジョージィ
魔法のベッドで冒険旅行にGO!
リサイクルショップで見つけたジョージィ用のベッド。なんでも、旅ができる魔法のベッドとのことです。ベッドには何やらことばが記されています。「このベッドで遠いところへひとっ飛び。まずお祈りをささげて、それからM×××Yの呪文を唱えなさい」。その晩、ジョージィは早目にベッドに入り、お祈りをささげてMで始まりYで終わる言葉をいろいろ言ってみました。でも何も起こりません。次の日もお祈りと思いつく呪文を口にしたら、ベッドはひゅーっと空を飛んでるじゃありませんか。
妖精と小人の国で読み聞かせ。迷子の子トラを親トラの元へ連れていってあげました。洞くつの財宝を見つけて海賊に追いかけられたことも。海でイルカと遊んだり、ほうきの魔女と競争したり。ベッドに横たわり、ジョージィはいろんな冒険に出かけます。
ストーリーとは別に、印象に残ったのが登場人物の描き方です。ジョージィ(Georgie)は子供用ベッドから大きめサイズに替わる年齢の男の子。一緒にベッドを買いに行くのがフランクという男性です。家には女性がふたりいます。ひとりはジョージィのおばあちゃん(Georgie's granny)で、もうひとりはtheyでひとくくりにされているだけ。後半、ジョージィとフランク、女性の3人はバカンスに出かけます。多分、祖母・両親・子どもの4人家族と想像されますが、Georgie's grannyという言葉以外、明確に家族関係を示す言葉はありません。ジョージィは男性を「フランク」とファーストネームで呼びます。
「そんな使い古しのベッドなんか。新品を買いに行ったんでしょ」「魔法のベッドで月に行ったの?」なんて、おばあちゃんは少々口うるさいタイプ。男性作家が描く人間模様から、いろんな連想が広がってゆきます。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
He said his prayers and then tried to say the magic word.
He tired: money, matey, mummy, murky, molly, mandy,milly, messy, minty, mousy...
ジョージィが思いついたMで始まりYで終わるアルファベット5文字の呪文。効いたのは何だったのかな。
Avocado Baby
アボカド・ベイビー ジョン・バーニンガム 文と絵 青山南訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
赤ちゃん
アボカドパワーでスーパー赤ちゃんに変身。
ハーグレイブズ家に赤ちゃんが生まれました。ところが食が細く、もりもりすくすくというわけにはいきません。心配するおかあさんに上のふたりが言いました。「アボカドを食べさせてみたら」。
不思議なことに、だれも買っていないのにフルーツボウルにはアボカドが。試しにすりつぶして食べさせると赤ちゃんはペロリとたいらげました。そしてこの日を境に、もりもりパワーアップ。
そのパワーたるや、上り坂で子どもたちの乗ったカートを引っ張るは、エンジンがかからない車を押すは、いじめっ子を投げ飛ばすはと、まさにスーパー赤ちゃんです。
ガーディアン紙のスライドショーで、バーニンガムはアボカド好きの末娘を念頭に置いた物語だと明かしています。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
BEWARE OF THE BABY
ハーグレイブズ家の門には防犯対策として「猛犬注意」ならぬ「猛ベビー注意」の看板がかけられています。
Where's Julius?
ジュリアスは どこ? ジョン・バーニンガム文と絵 谷川俊太郎訳 あかね書房
朝ごはんはピラミッドでね。
トラウトベック家の食卓に料理が並び、昼ごはんの準備がととのいました。でもジュリアスの姿がありません。「ジュリアスはどこ?」いまはちょっと手が離せないみたい。イスとほうきとカーテンで基地作りの真っ最中だから。
夕ごはんも朝ごはんもジュリアスは姿を見せません。あら、地球の反対側までせっせと穴を掘ってます。ラクダにのってめざすのはピラミッドのてっぺん。ごはんを食べなくて平気なの?大丈夫、お父さんとお母さんが交代で地球の裏側やピラミッドまで食事を運んでいます。
食卓に並ぶイギリスの家庭料理も興味と食欲をそそります。ある日の夕飯は、熱々のラム・キャセロールに皮付きポテトとバターをかけたブロッコリー。デザートはローリー・ポーリー・プディングです。
ジュリアスといっしょに冒険に出かけましょ。おいしい食事付きですよ。
GRANPA
おじいちゃん ジョン・バーニンガム 文と絵 谷川俊太郎訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
おじいちゃん 孫娘
おじいちゃんと、いっしょ。
ひじかけ椅子に座ったおじいちゃんが両手を広げて孫娘を迎え、少女も両手を広げておじいちゃんに駆け寄ります。こんなシーンで始まる物語は祖父と孫のほのぼのした交流を予感させますが、バーニンガムはそうやすやすと心地よさに安住させてくれません。
ふたりで過ごすひととき ― 植物の手入れ、ままごと、人形あそび。家をはなれて浜辺でピクニックしたり、船で魚釣りにでかけたりも。時間と場所を共にしているけれど、おじいちゃんと少女の世界はどこかちぐはぐで微妙にズレているような。
カラーとモノクロのページがほぼ交互になっている構成が独特の効果をもたらしています。ふたりが共有する現実と、それぞれの心が抱く空想や思い出を行き来しながら、物語の思いがけない奥行きと広がりに立ち止まることもしばしばです。
終盤、からっぽのひじかけ椅子を少女がじっと見つめています。唯一、色彩を与えられた緑色の椅子は姿の見えない主の存在感を静かにたたえています。それに続くシーンで、目に飛び込んでくる緑のグラデーション。髪をなびかせて彼女はどこへ向かっているのでしょう。まるで私たちを、この物語の先へ誘っているかのようです。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
Were you once a baby as well, Granpa?
孫にとって、おじいちゃんはずっとおじいちゃん。子ども時代なんて想像できません。
CLOUDLAND
くものこどもたち ジョン・バーニンガム 文と絵 たにかわしゅんたろう訳 ほるぷ出版
主なキャラクター
アルバート
落ちたところは雲の国。
両親と登山に出かけたアルバートは、下山の途中で崖から落ちてしまいました。でも幸運なことに、雲に住むこどもたちに助けられました。雲の国でアルバートはこどもたちといっしょにいろんな遊びを楽しみます。ぴょんぴょん、とんではねて。雷に負けじと大きな音で大騒ぎ。雨がふったら泳ごうよ。虹がでたら絵を描こう。雲の国は楽しいけれど、やっぱりおうちが恋しい。おとうさん、おかあさんに会いたい。
はつらつと遊ぶこども達の姿にほのぼのと心躍り、空を見上げたくなります。でも何度か読むうちに、綿にくるまれたような雲の国の向こうに何かが二重写しになってきました。女王さまとこどもたちのいる雲の国。神さまと、天使のいる、天の国。そんな心持ちでたどりつくエンディングには不思議な気配が漂うのです。
ぴっくあっぷ名シーン迷場面
But the plane left a perfect path for Albert
and he was able to walk to the other children.
飛行機雲は空の道。
BORKA
ボルカ―はねなしガチョウのぼうけん ジョン・バーニンガム 文と絵 木島始訳
ほるぷ出版
主なキャラクター
ボルカ
羽がないガチョウのアドベンチャー。
1963年に出版されたバーニンガムのデビュー作です。主人公はガチョウのボルカ。生まれつき羽がありません。そんなボルカのためにおかあさんはセーターを編んでくれました。でもきょうだいたちはセーターを着たボルカを笑い、仲間外れにします。おかげで飛び方を習うことができません。冬が来て、渡りのときがやってきました。飛び立つ家族をボルカはただ見送るしかできません。ひとりぼっちになったボルカの冒険が始まります。
あとがきによると、当時、バーニンガムはロンドンの地下鉄のポスターを制作する仕事をしていて、羽のないガチョウの話を思いついたそうです。Borkaという名前はモスクワの動物園かサーカスにいたガチョウからとったとのこと。知人の勧めでその作品を出版社に持ち込み、絵本作家ジョン・バーニンガムが誕生しました。
絵本のトビラには「For Helen」の献辞が。もちろん妻である絵本作家Helen Oxenbury(ヘレン・オクセンバリー)に捧げたものですね。
CANNONBALL SIMP
ずどんと いっぱつ―すていぬシンプ だいかつやく 渡辺茂男訳 童話館出版
主なキャラクター
シンプ
捨て犬がたどる知恵と勇気の軌跡。
シンプは太って不細工な黒い小犬です。きょうだいたちはもらい手が見つかったのにシンプは誰も飼いたがらず、ゴミ捨て場の近くに捨てられてしまいます。こうして始まったシンプの苦難。すきっ腹を抱え猫に追いかけられ、野犬狩りから危うく逃れ、行き着いたところがサーカスです。やさしいピエロに助けられたシンプは、体当たりでピエロの窮地を救おうとします。
暗く不気味なゴミ捨て場にポイッ。ゴミのように放られる小さなシンプ。縄張りを荒らされた猫が襲いかかります。挙句の果てに野犬狩りに捕獲。そんな悲哀あふれる捨て犬が、後半は知恵と勇気で大活躍。太った黒い小犬の個性がスポットライトと高鳴るドラムに乗って炸裂します。すごいぞシンプ!
HARQUIN
ハーキン―谷へおりたきつね ジョン・バーニンガム 文と絵 あきのしょういちろう訳
童話館出版
安全地帯を飛び出して、子ギツネは駆け回る。
子ギツネのハーキンは小高い山に家族と暮らしています。両親から「けっして谷へ下りてはいけない」と再三クギをさされているものの、好奇心旺盛なハーキンは夜になるとこっそり山を下りて、花々を愛でたり鶏を捕まえたり。ところがある日、猟場の番人に姿を見られてしまいます。そして大々的なキツネ狩りが始まります。見つからないように家でじっとしているキツネ一家。でもハーキンには考えがありました。
ハンティングの場面に注目です。ハンターは狩猟用の赤いジャケットを着用。ラッパを合図に多くの猟犬を引き連れて馬で獲物を追いかけます。一行がハーキンを見つけました。全速力で逃げるハーキン。あとを追うハンター達。その行く先は...。
この武勇伝も冒険心もハーキン一家にしっかりと受け継がれているようです。
Motor Miles
ドライバー マイルズ ジョン・バーニンガム 文と絵 谷川俊太郎訳 BL出版
犬のマイルズ、愛車でゴー。
マイルズときたら散歩は嫌い、呼んでも来ないは無駄吠えはするは。飼い主のアリスとノーマン親子は手を焼きながらも可愛がっています。マイルズが大好きなことはドライブです。お隣のハディさんがマイルズ用に車を作ってくれました。運転の仕方もマスターして、いよいよドライバー・マイルズの誕生です。
助手席にノーマンを乗せて、ハンドルを握るマイルズ。海辺や草原を走るふたりの楽しそうなこと!愛犬家の夢を乗せた物語は、続きがあるようです。だって、ハディさんの家からなにやら物音が...。
マイルズのモデルはバーニンガム一家の愛犬マイルズ。「our much-loved difficult dog」と写真付きで紹介されています。
Air Miles
パイロット マイルズ ジョン・バーニンガム作 ヘレン・オクセンバリー絵
ビル・サラマン文 谷川俊太郎訳 ビーエル出版
老犬マイルズ、空を飛ぶ。
犬のマイルズを主人公にした『Motor Miles』の第2弾です。表紙には、バーニンガムと共に妻であるヘレン・オクセンバリーの名前が記されています。本作品を構想中にバーニンガムは病に倒れ、2019年に帰らぬ人となりました。後を託されたオクセンバリーがイラストを描き、親友のビル・サラマンがバーニンガムから聞いた話を元に文章を綴り、出版されたのがこの作品です。バーニンガムの手によるスケッチと3点のイラストも収められています。『Air Miles』を世に送り出したそれぞれの想いが、どのページからもしみじみと伝わってきます。
マイルズはアリスとノーマン親子と暮らすジャックラッセルテリアです。近頃は足が弱り、活発に動き回ることもなくなりました。彼を元気づけようとノーマンはお隣のハディさんに相談します。おりしも製作中の飛行機がそこに。パイロット...になれるかな。
大空をどこまでも飛んでいくマイルズの飛行機。空高く、遠くへ、小さな機影は飛んでゆきます。
Goodbye,Milesと記された言葉のあとで、自然につぶやきました。
Goodbye,Mr Burningham.
Thank you,Mr Burningham.
ジョン・バーニンガム わたしの絵本、わたしの人生
ジョン・バーニンガム わたしの絵本、わたしの人生
ジョン・バーニンガム著 灰島かり訳 ほるぷ出版
自ら語る人生と絵本。
ジョン・バーニンガムが人生と作品を語り尽くした自伝です。表紙をめくって最初に目に飛び込んでくるのが若き日のジョンとヘレン(妻であるイラストレーターのヘレン・オクセンバリー)のツーショット。こんな貴重なプライベート写真やスケッチを数多く掲載した、まさにファン垂涎の1冊です。
バーニンガムは1936年生まれ。進歩的な両親の下、子ども時代はトレーラーハウスで各地を転々とする生活で、学校もあちこち転校を繰り返しています。自由な校風で知られるサマーヒル校を53年に卒業した後、良心的兵役拒否者となって2年半にわたり奉仕活動に従事。イギリスで林業、有機農業、精神病院の患者搬送、スラム街の整備。イタリアで学校建設、イスラエルで運動場整備など、各地でさまざまな仕事を体験します。
その後、ロンドンの中央美術工芸学校(the Central School of Arts and Crafts)でグラフィックデザインとイラストを学びます。子どもの頃からいつも絵を描いていたバーニンガムですから美術学校進学は当然のなりゆきかと思いきや、偶然の出会いがきっかけとか。奉仕活動が終わったものの将来を決めかねていたとき、たまたまウォータールー橋の上で旧友と再会。その友人が中央美術工芸学校の学生で、興味を抱いたバーニンガムも入学することに。ちなみに舞台美術を学んでいたヘレンと知り合ったのも在学中です。
59年に『ギニー・ピッグ』誌にイラストが採用され、これがイラストレーターのデビュー作となります。大きな転機はロンドン交通局のポスター制作です。動物や木々や花々、ガンピーさん似の人物など、バーニンガムの絵本でおなじみのキャラクターをほうふつとさせます。
63年に初めての絵本『BORKA The Adventures of a Goose with no Feathers』(ボルカ はねなしガチョウのぼうけん)を出版します。挿絵の仕事を求めて雑誌社や出版社に売り込みに行ったものの断られ続け、それなら自分で物語も挿絵もと作った絵本がコレ。制作ノートにはペン書きのストーリーとガチョウの絵が残されています。バーニンガムはこの作品でケイト・グリーナウェイ賞を受賞。以後、毎年のように絵本を発表しています。
本書では、2006年の『Edwardo The Horriblest Boy in the Whole Wide World』(エドワルド せかいでいちばんおぞましいおとこのこ)までの作品を取り上げています。作者ならではのコメントやエピソードは作品への新たな視点を与えてくれます。巻末には年表と著作一覧を掲載。精力的な仕事ぶりがうかがえます。
John Burningham(ジョン・バーニンガム) PROFILE
1936年、イギリス・サリー州生まれ。第2次大戦中は一家でトレーラーハウスに住み各地を移動。学校は何回も転校する。良心的兵役拒否者として林業、農業、建設業などの社会事業に従事。1956年~59年、ロンドンの中央美術工芸学校でデザインとイラストを学ぶ。ロンドン交通局の依頼でポスターを制作。63年に初めての絵本『Borka: The Adventures of a Goose With No Feathers』でケイト・グリーナウェイ賞受賞。70年の『Mr Gumpy’s Outing』で2度目のケイト・グリーナウェイ賞に輝く。89年、環境問題をテーマにした『Oi! Get Off Our Train』(いっしょにきしゃにのせてって!)は「EXPO90国際花と緑の博覧会」のためにJR西日本の依頼で制作した絵本。
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